第1672回:院長ブログ:インスリン抵抗性とは?肥満から生活習慣病につながる重要な仕組み ~内臓脂肪が増えると、なぜ血糖・血圧・脂質まで悪くなるのか~
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糖尿病というと、
「インスリンが出なくなる病気」
というイメージを持っている方が多いかもしれません。
しかし、2型糖尿病やメタボリックシンドロームを理解するうえで、もう一つ非常に重要なのが、
「インスリンは出ているのに、効きにくい」
という状態です。
これをインスリン抵抗性といいます。
特に内臓脂肪が増えている人では、糖尿病と診断される前からインスリン抵抗性が生じていることがあります。
インスリンは、すい臓のβ細胞から分泌されるホルモンです。
食事をすると、炭水化物などが消化・吸収されて血液中のブドウ糖が増え、血糖値が上昇します。
すると、すい臓からインスリンが分泌されます。
インスリンは、
筋肉などの組織でブドウ糖を利用しやすくする
肝臓から必要以上に糖が放出されるのを抑える
余ったエネルギーを蓄える方向に働く
など、エネルギー代謝を調節する重要な役割を担っています。
その結果、食後に上昇した血糖は適切な範囲へ戻っていきます。
「抵抗性」という言葉は少し難しく聞こえますが、イメージはシンプルです。
正常な状態では、
少ないインスリンでも体がきちんと反応する
のに対し、インスリン抵抗性がある状態では、
同じ量のインスリンでは十分な効果が得られにくい
状態になります。
すると体は血糖値を保つために、すい臓からより多くのインスリンを分泌して補おうとします。
つまり初期には、
インスリンが効きにくくなる
↓
すい臓がインスリンを多く出す
↓
血糖値は一見それほど上がらない
という状態が起こることがあります。
そのため、血糖値が正常だからインスリン抵抗性がまったくないとは限りません。

【図1:正常なインスリン作用とインスリン抵抗性 ―「少量で効く」vs「効きにくい」を比較】
ここが肥満・メタボシリーズの重要なポイントです。
脂肪組織は単なる「エネルギーの倉庫」ではありません。
さまざまな生理活性物質を分泌し、全身の代謝に関わっています。
内臓脂肪が過剰に増えると、
遊離脂肪酸の増加
脂肪組織由来の生理活性物質のバランス変化
慢性的な炎症に関連する変化
などを介して、肝臓や筋肉などでインスリンが効きにくくなる方向へ働きます。
特に重要なのが、
筋肉と肝臓
です。
筋肉は、食後のブドウ糖を取り込んで利用する重要な組織です。
筋肉でインスリンの作用が低下すると、ブドウ糖を取り込みにくくなり、血液中に糖が残りやすくなります。
さらに、
運動不足 → 筋肉を使わない → 糖を利用する機会が減る
という状況が重なると、血糖管理にはより不利になります。
だからこそ、肥満や糖尿病予防において運動や筋肉量の維持が重要なのです。
肝臓には、必要に応じて血液中へブドウ糖を供給する役割があります。
通常、インスリンは肝臓に対して、
「今は血糖が十分あるので、糖を出しすぎないでください」
というブレーキのような働きをします。
ところがインスリン抵抗性が生じると、このブレーキが十分に効きにくくなります。
その結果、肝臓からの糖放出が抑えられにくくなり、特に空腹時血糖の上昇にも関係してきます。
インスリン抵抗性が起きても、すぐに糖尿病になるとは限りません。
最初のうちは、すい臓がインスリンを多く分泌することで血糖を保とうとします。
これを代償性の高インスリン血症と呼ぶことがあります。
しかし、インスリン抵抗性が続き、さらにインスリン分泌能力とのバランスが崩れてくると、
食後血糖が上がる
↓
空腹時血糖も上がる
↓
HbA1cが上昇する
など、糖代謝異常が表面化してきます。
つまり、糖尿病はある日突然始まるのではなく、その前から体の中では変化が進んでいることがあるのです。
インスリン抵抗性が重要なのは、糖尿病だけに関係するからではありません。
内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性を背景として、
高血糖
中性脂肪の上昇などの脂質代謝異常
血圧上昇
脂肪肝
などが重なりやすくなります。
これが前回までに解説してきたメタボリックシンドロームにつながります。
そして複数の危険因子が重なることで、長期的には動脈硬化性疾患のリスクにも関係してきます。
【図2:内臓脂肪→インスリン抵抗性→高血糖・脂質異常・高血圧・脂肪肝へつながる仕組み】
多くの場合、インスリン抵抗性そのものに特徴的な自覚症状はありません。
だからこそ健康診断が重要です。
たとえば、
といった変化が重なっている場合には、背景に内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性が関係している可能性があります。
一つの検査値だけではなく、健診結果全体の変化を見ることが大切です。
インスリン抵抗性は、生活習慣の改善によって良くなる可能性があります。
特に重要なのは、
体重を極端に落とすことよりも、余分な内臓脂肪を減らすことが重要です。
食事と身体活動の両面から取り組みます。
筋肉はブドウ糖を利用する大きな組織です。
ウォーキングなどの有酸素運動に加えて、無理のない筋力トレーニングも役立ちます。
運動する時間だけでなく、普段から歩く、立つ、階段を使うなど日常の活動量を増やすことも重要です。
食事量だけでなく、糖質の摂り方、間食、甘い飲み物、アルコールなども含めて見直します。
睡眠不足や不規則な生活は、食行動や代謝にも影響します。
肥満対策では睡眠も重要な生活習慣の一つです。
インスリンが脂肪蓄積にも関係することから、
「インスリンは悪いホルモン」
のように説明されることがあります。
しかし、これは正しくありません。
インスリンは、血糖を適切に保ち、エネルギーを利用・貯蔵するために欠かせないホルモンです。
問題なのはインスリンそのものではなく、
過剰な内臓脂肪などを背景として、インスリンが効きにくくなっている状態
です。
肥満対策の目的は「インスリンをなくすこと」ではなく、インスリンが適切に働ける代謝状態を取り戻すことと考えるとわかりやすいでしょう。
肥満・メタボを診るとき、体重だけを見るのでは不十分です。
特に、
腹囲が増えている
血糖・HbA1cが上昇している
中性脂肪が高い
血圧が高い
脂肪肝がある
という変化が重なっていれば、内臓脂肪やインスリン抵抗性を含めて生活習慣全体を考える必要があります。
まだ糖尿病と診断されていない段階から対策を始めることが重要です。
健診結果が少しずつ悪化してきた場合には、まずは内科クリニックへご相談ください。
必要に応じて専門医療機関へご紹介します。
インスリン抵抗性とは、
「インスリンは分泌されているのに、体が十分に反応しにくくなった状態」
です。
特に内臓脂肪が増えると、筋肉や肝臓などでインスリンが効きにくくなりやすく、
高血糖・脂質異常・高血圧・脂肪肝
などの代謝異常につながっていきます。
つまり、
内臓脂肪
↓
インスリン抵抗性
↓
複数の代謝異常
↓
メタボ・生活習慣病
というつながりを理解することが重要です。
そしてこの段階は、生活習慣を改善することで変えられる可能性があります。
血糖値がまだ正常範囲だからといって、生活習慣を気にしなくてよいわけではありません。
腹囲、血圧、血糖、HbA1c、中性脂肪、肝機能などを数年間並べてみると、体の変化が見えてくることがあります。
「糖尿病になってから」ではなく、その前から体を整える。
これが生活習慣病予防では非常に大切です。
インスリン抵抗性を考えるとき、ぜひ覚えておいてほしいのが**「筋肉は糖を使う大切な場所」**ということです。
食事だけを減らすのではなく、
歩く・筋肉を使う・座りっぱなしを減らす。
この3つを日常生活に取り入れることが、肥満・メタボ対策の大切な基本になります。
体重がほとんど変わっていなくても、ウエストだけ増えてきたという人は少なくありません。
次回は、腹囲がなぜ内臓脂肪の手がかりになるのか、体重やBMIとはどう使い分ければよいのかを詳しく解説します。