第1702回:院長ブログ:肥満とがんの関係は?太るとがんのリスクは上がる? ~内臓脂肪・インスリン抵抗性・慢性炎症・ホルモンから考える「肥満とがん」の関係~
BLOG

BLOG
肥満というと、
糖尿病
高血圧
脂質異常症
心筋梗塞
脳卒中
などを思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、肥満は一部のがんの発症リスクとも関連することがわかっています。
ここで大切なのは、
「太っていれば必ずがんになる」
という意味ではないことです。
がんは、
加齢
遺伝
喫煙
飲酒
感染症
紫外線
食生活
身体活動
ホルモン
偶発的な遺伝子変化
など、多くの要因が複雑に関係して発生します。
肥満は、その中の修正可能なリスク因子の一つです。
肥満との関連が知られているがんには、たとえば、
大腸がん
肝がん
膵がん
腎がん
胆のうがん
食道腺がん
胃噴門部がん
子宮体がん
閉経後乳がん
卵巣がん
などがあります。
そのほかにも関連が示されているがんがあります。
ただし、肥満との関連の強さや仕組みは、がんの種類によって異なります。
脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵庫ではありません。
さまざまな生理活性物質を分泌する、内分泌臓器としての働きがあります。
特に内臓脂肪が過剰になると、
インスリン抵抗性
高インスリン血症
慢性炎症
アディポカインの変化
性ホルモン環境の変化
などが起こります。
こうした身体内部の環境変化が、いくつかの経路を通じてがんの発生・増殖に関係すると考えられています。
肥満、とくに内臓脂肪が増えると、インスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性が起こりやすくなります。
すると身体は血糖を維持するために、より多くのインスリンを分泌しようとします。
その結果、血中インスリン濃度が高くなることがあります。
インスリンは血糖を下げるだけのホルモンではありません。
細胞の増殖や代謝に関係する作用も持っています。
肥満に伴う代謝変化では、インスリンだけでなくIGF(インスリン様成長因子)系にも影響が及びます。
インスリン・IGF系は、細胞の、
増殖
生存
代謝
などに関係します。
このシグナルががん細胞の増殖に有利な環境をつくる可能性があり、肥満と一部のがんを結ぶ仕組みの一つとして研究されています。
ただし、
「インスリンが出る食べ物を食べたら、がんになる」
という単純な話ではありません。
内臓脂肪が過剰になると、脂肪組織では慢性的な低度炎症が起こります。
さまざまな炎症性サイトカインなどが関係し、全身の代謝にも影響します。
慢性的な炎症環境は、細胞の増殖や組織環境に影響し、発がんに関係する可能性のある重要な経路の一つです。
脂肪組織からは、
レプチン
アディポネクチン
など、さまざまなアディポカインが分泌されています。
肥満になると、その分泌バランスが変化します。
こうした変化も、代謝・炎症・細胞増殖などを介して、一部のがんとの関連が研究されています。
特に閉経後の女性では重要です。
閉経後には卵巣からのエストロゲン産生が低下しますが、脂肪組織でもアンドロゲンからエストロゲンへの変換が行われます。
そのため脂肪組織が多いと、ホルモン環境が変化することがあります。
これが、閉経後乳がんや子宮体がんなどとの関連を説明する仕組みの一つと考えられています。
内臓脂肪の増加
↓
インスリン抵抗性・慢性炎症
↓
高インスリン血症・IGF系・アディポカイン変化
+
性ホルモン環境の変化
↓
細胞増殖や組織環境への影響
↓
一部のがんの発症リスク上昇
という複数の経路が考えられています。

【図1:肥満とがんをつなぐ5つの仕組み― インスリン抵抗性・IGF系・慢性炎症・アディポカイン・性ホルモン】
あります。
以前の記事で解説したように、肥満・糖尿病・脂質異常症などを背景として脂肪肝を起こすことがあります。
現在は、こうした代謝異常と関連する脂肪性肝疾患をMASLDと呼びます。
多くの脂肪肝がそのまま肝がんになるわけではありません。
しかし一部では、
脂肪肝
↓
炎症
↓
線維化
↓
肝硬変
↓
肝細胞がん
へ進行する可能性があります。
ASTやALTが正常範囲でも、脂肪肝や肝線維化が存在する場合があります。
肥満・糖尿病・脂肪肝などがある方では、必要に応じて、
AST
ALT
γ-GTP
血小板
腹部超音波
FIB-4
肝硬度
などを組み合わせて評価します。
大腸がんも肥満との関連が知られている代表的ながんの一つです。
内臓脂肪、インスリン抵抗性、慢性炎症などが関連する可能性が考えられています。
ただし肥満だけで大腸がんリスクが決まるわけではありません。
年齢や家族歴なども考慮し、適切ながん検診を受けることが重要です。
ここは誤解しないことが重要です。
適正体重を維持することは、がん予防を考えるうえで重要な生活習慣の一つです。
しかし、
「10kg痩せれば、がんにならない」
「BMIが正常なら、がんにならない」
ということではありません。
がんには多くの原因があります。
したがって減量は、がんのリスクを下げるためにできる対策の一つとして考えます。
肥満を改善することで、
インスリン抵抗性
慢性炎症
性ホルモン環境
脂肪肝
などが改善する可能性があります。
観察研究や減量治療に関する研究からは、肥満の改善が一部の肥満関連がんのリスク低下につながる可能性が示されています。
一方で、がんの種類や減量方法によってエビデンスの強さは異なります。
そのため、
「痩せれば必ずがんを防げる」
とは言えません。
がんを怖がって、
極端な食事制限
急激な減量
栄養不足
に陥ることはおすすめしません。
特に高齢者では、体重を減らしすぎることで、
筋肉量低下
フレイル
転倒
免疫機能や身体機能の低下
などにつながる可能性があります。
大切なのは、肥満を改善しながら筋肉と栄養状態を保つことです。
「がん細胞はブドウ糖を使うから、糖質を完全に断てばがんを予防できる」
という話を聞くことがあります。
しかし、このような単純な説明は適切ではありません。
正常な細胞もブドウ糖を利用しますし、糖質を食べなければ体内からブドウ糖が完全になくなるわけでもありません。
糖質制限そのものが、がんを確実に予防するという意味ではありません。
一方で、
糖質の過剰摂取
甘い飲み物
過剰なエネルギー摂取
などによって肥満・内臓脂肪・糖尿病・脂肪肝が進行することは、健康上大きな問題です。
当院では肥満・メタボの方に対して、糖質制限を有力な食事療法の一つとして考えています。
目的は、
「糖質をゼロにして、がん細胞を兵糧攻めにする」
ことではありません。
肥満・内臓脂肪・高血糖・高中性脂肪などの代謝異常を改善することです。
果物にはビタミンや食物繊維などが含まれますが、果糖を含む糖質源でもあります。
したがって肥満・糖尿病・高中性脂肪・脂肪肝がある方に、
「がん予防のために果物をたくさん食べましょう」
と一律にすすめる必要はありません。
特に、
果汁ジュース
スムージー
ドライフルーツ
は糖質を摂取しやすいため注意します。
一方で、丸ごとの果物をすべての方が完全に禁止する必要があるという意味でもありません。
がん予防を考えるなら、体重だけに集中するのは不十分です。
特に重要なのが、
喫煙
過度の飲酒
です。
さらにがんによっては、
感染症
紫外線
職業性曝露
なども重要です。
「痩せたから、タバコを吸っても大丈夫」ということにはなりません。
身体活動は体重管理だけでなく、一部のがんのリスク低下とも関連しています。
ウォーキングなどの有酸素運動と筋力トレーニングを無理なく続け、
内臓脂肪を減らしながら筋肉を維持する
ことを目指します。
これも注意が必要です。
一般的な健康診断と、がん検診は目的が異なります。
通常の血液検査だけで、すべての早期がんを発見できるわけではありません。
肥満を改善していても、年齢・性別などに応じて推奨されるがん検診を受けることが重要です。
腫瘍マーカーは、健康な人のがんを何でも早期発見できる万能検査ではありません。
がんがあっても正常の場合がありますし、がんがなくても上昇する場合があります。
「腫瘍マーカーが正常=がんがない」
とは判断できません。
がん予防では、科学的根拠のある検診を適切に利用することが重要です。
適正な体重・腹囲を目指します。
特に甘い飲み物や過剰な間食を減らします。
有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせます。
がん予防で非常に重要です。
飲酒量が多い方は減らします。
代謝異常を早期から管理します。
「痩せているから大丈夫」と考えないことが重要です。

【図2:肥満関連がんを防ぐ7つのポイント― 内臓脂肪・糖質・運動・禁煙・飲酒・検診を見直そう】
肥満治療の目的は、
見た目を細くすることだけではありません。
肥満を改善することは、
糖尿病
高血圧
脂質異常症
脂肪肝
心血管疾患
腎臓病
などのリスクを改善するだけでなく、一部のがんのリスクを考えるうえでも重要です。
ただし、
「この食品を食べればがんにならない」
「糖質を完全に断てばがんが消える」
「このサプリでがんを予防できる」
といった単純な方法ではありません。
肥満・喫煙・飲酒・運動・代謝異常を総合的に改善しながら、必要ながん検診を受けることが大切です。
肥満は、一部のがんの発症リスクと関連しています。
その背景には、
インスリン抵抗性
インスリン・IGF系
慢性炎症
アディポカイン
性ホルモン
脂肪肝
など、複数の仕組みが関係すると考えられています。
しかし、
肥満=がんになる
ではありません。
反対に、
痩せている=がんにならない
でもありません。
肥満は、がんの多くの危険因子の中で、自分で改善できる可能性のあるものの一つです。
がん予防というと、
特別な食品
サプリメント
極端な食事療法
に目が向きがちです。
しかし実際には、
肥満を改善する
タバコを吸わない
飲酒を見直す
身体を動かす
糖尿病・脂肪肝を管理する
適切ながん検診を受ける
といった基本的な対策が重要です。
肥満・メタボを指摘された方は、まずは内科クリニックへご相談ください。
必要に応じて専門医療機関へご紹介します。
肥満とがんの話で最も避けたい誤解は、
「糖質=がんの餌だから、糖質をゼロにすればがんを防げる」
という考え方です。
糖質の摂りすぎを見直すことは、肥満・糖尿病・脂肪肝の改善という意味で重要です。
しかし、がん予防はそれだけではありません。
体重・代謝・喫煙・飲酒・運動・検診まで含めて考える。
これが現実的ながん予防です。
「太っていると認知症になりやすい?」
「肥満と認知症は何歳の体重を見るのが重要?」
「高血圧・糖尿病・睡眠時無呼吸も認知症と関係する?」
次回は、中年期肥満と認知症リスク、内臓脂肪・高血圧・糖尿病・脳血管障害・睡眠時無呼吸との関係、そして将来の脳を守るために今からできる肥満・メタボ対策を詳しく解説します。