第1670回:院長ブログ:なぜ太る?「食べすぎ」だけでは説明できない体重増加の仕組み ~食事・運動・筋肉・睡眠・加齢――体重を決めるのは一つではありません~
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体重が増えると、
「食べすぎなんじゃない?」
と言われることがあります。
確かに、長期的に見れば摂取するエネルギーが消費するエネルギーを上回る状態が続くことが、体重増加の基本です。
しかし、人間の体はそれほど単純ではありません。
同じ人でも年齢や生活環境によって、
食欲
身体活動量
筋肉量
睡眠時間
飲酒量
ホルモンや代謝の状態
などが変化します。
その結果、本人には「食べる量は昔と変わっていない」という感覚があっても、体重が徐々に増えていくことがあります。
体重変化の基本となる考え方は、
摂取エネルギー ⇄ 消費エネルギー
のバランスです。
食事や飲み物から入ってくるエネルギーが、体が使うエネルギーを長期的に上回れば、余剰分は主に脂肪として蓄積され、体重は増える方向へ向かいます。
逆に、消費するエネルギーが摂取量を上回る状態が続けば、体重は減る方向へ向かいます。
ただし重要なのは、
摂取側も消費側も毎日一定ではない
ということです。
【図1:なぜ太る?― 摂取エネルギーと消費エネルギーのバランス】
「運動していないから太った」
という説明も、半分は正しく、半分は不十分です。
私たちが1日に使うエネルギーには、大きく、
基礎代謝
身体活動による消費
食事に伴うエネルギー消費
などがあります。
そして身体活動には、ジョギングや筋トレのような「運動」だけでなく、
歩く
階段を使う
立つ
家事をする
買い物に行く
仕事中に移動する
といった日常生活の動きも含まれます。
こうした運動以外の身体活動によるエネルギー消費は、**NEAT(非運動性活動熱産生)**と呼ばれます。
「スポーツはしていないけれど一日中よく動く人」と、「週末には運動するけれど平日はほぼ座りっぱなしの人」では、日々の消費エネルギーのあり方が違ってきます。
これは中年以降の患者さんからよく聞く言葉です。
実際には、食事量だけでなく生活全体が少しずつ変化していることがあります。
たとえば、
若いころは駅まで歩いていた
↓
現在は車で移動する
仕事中によく動いていた
↓
管理職になり座っている時間が増えた
休日は外出していた
↓
自宅で過ごすことが増えた
筋肉量が多かった
↓
加齢や運動不足で減ってきた
このような小さな変化が積み重なると、食事量が大きく増えていなくても、長期間では体重増加につながります。
よく、
「年を取ると代謝が落ちるから仕方ない」
と言われます。
加齢に伴って体組成や身体活動量が変化し、筋肉量が減少することはあります。
ただし、中年期の体重増加をすべて「基礎代謝の低下」だけで説明するのは適切ではありません。
日常生活で動く量が減ったり、座っている時間が増えたり、食生活や飲酒習慣が変化したりする影響も重要です。
したがって、
「年齢のせいだから痩せない」
と諦める必要はありません。
むしろ年齢とともに、
筋肉を維持すること
日常の活動量を確保すること
が重要になってきます。
筋肉は体を動かすだけでなく、糖を利用する重要な組織でもあります。
筋肉量が減り、同時に内臓脂肪が増えると、体重そのものが大きく変化していなくても代謝状態が悪化することがあります。
特に中高年では、
体重だけを落とすこと
を目標にして極端な食事制限をすると、脂肪だけでなく筋肉まで減ってしまう可能性があります。
肥満対策では、
余分な脂肪を減らしながら、筋肉を守る
という視点が非常に大切です。
肥満というと、毎日大量に食べている姿を想像するかもしれません。
しかし実際には、明らかな暴飲暴食がなくても体重は増えることがあります。
たとえば、
毎日の間食
甘い飲み物
晩酌とおつまみ
食後のデザート
外食時の追加メニュー
など、一つひとつは小さな習慣でも、それが長期間続けばエネルギーバランスに影響します。
特に飲み物やアルコールは、本人が「食事」として認識しにくいため注意が必要です。
食事と運動だけでなく、睡眠も体重管理に関係します。
睡眠不足や不規則な生活が続くと、食欲の調節や食行動に影響し、高エネルギーの食品を選びやすくなったり、活動量が低下したりすることがあります。
また、夜遅くまで起きていれば、それだけ食べる機会が増えることもあります。
つまり肥満対策は、
「食べない・運動する」だけではなく、生活リズム全体を見る
必要があるのです。
ストレスを感じたときに、
「甘いものが欲しくなる」
「夜に食べてしまう」
という経験がある方もいるでしょう。
ストレスそのものだけで体重増加を単純に説明することはできませんが、ストレスによる食行動の変化、睡眠不足、飲酒量の増加、活動量の低下などが重なることで、体重管理が難しくなることがあります。
そのため、
食事だけを注意してもうまくいかない
という場合には、睡眠や仕事、ストレスなども含めて生活全体を振り返ることが大切です。
ここが今回最も重要なポイントです。
同じ「5kg太った」という人でも、
食事量が増えた人
間食が増えた人
お酒が増えた人
歩かなくなった人
筋肉量が減った人
睡眠不足になった人
では、改善すべきポイントが違います。
そして実際には、一つではなく複数の原因が少しずつ重なっているケースが多くあります。
【図2:「なぜ太った?」を見つける6つのチェック ― 食事・活動量・筋肉・睡眠・飲酒・ストレス】
肥満による体重増加は、一般には時間をかけて進んでいきます。
一方で、短期間で急激に体重が増えた場合には、単純な脂肪増加だけとは限りません。
むくみによる体液貯留など、病気が背景にあることもあります。
特に、
急激な体重増加+息切れ
足のむくみ
横になると苦しい
などがある場合には、心不全などを含めた評価が必要になることがあります。
また、薬剤や内分泌疾患などが体重増加に関係する場合もあります。
急激な変化やほかの症状を伴う場合には、自己判断で「太っただけ」と考えず医療機関へ相談してください。
肥満・メタボの診療では、
「食べすぎです。痩せてください」
だけでは十分ではありません。
なぜ体重が増えたのかを、
食事
間食
飲酒
身体活動
筋肉量
睡眠
生活リズム
などから一緒に考えることが大切です。
原因が違えば、対策も変わります。
健診で体重・腹囲の増加や血圧・血糖・脂質の異常を指摘されたら、まずは内科クリニックへご相談ください。
必要に応じて専門医療機関へご紹介します。
体重増加の基本は、
摂取エネルギー > 消費エネルギー
という状態が長期的に続くことです。
しかし、その背景には、
食事・間食・飲酒・活動量・筋肉・睡眠・加齢・ストレス
など多くの要因が関係します。
だから肥満対策で最初にするべきことは、
「もっと食べる量を減らそう」
と決めることではありません。
まず、
「自分はなぜ体重が増えたのだろう?」
を見つけることです。
原因がわかれば、無理なく続けられる対策も見つけやすくなります。
体重が増えたことを「意志が弱いから」と考える必要はありません。
数年前と現在を比べて、
食事・歩く量・仕事・筋肉・睡眠・飲酒
のどこが変わったのかを確認してみてください。
体重増加の背景が見えてくることがあります。
「昔と同じものを食べているのに太った」という方は、食事ではなく一日の動きを比較してみてください。
通勤、階段、買い物、仕事中の移動、休日の外出など、知らないうちに日常の活動量が減っていることがあります。
肥満対策は、食事を減らすことだけではありません。
「もう一度、日常生活の中で動く」ことも立派な治療の一部です。
「40代、50代になって急に痩せにくくなった」と感じる方は少なくありません。
次回は、加齢・基礎代謝・筋肉量・身体活動量がどう関係しているのかを整理し、「年齢のせいだから仕方ない」で終わらせない体重管理を解説します。