第1712回:院長ブログ:下の血圧だけ高い「拡張期高血圧」とは?若い人にも多い理由 ~上の血圧が正常でも安心できない?「下だけ高い血圧」の意味を正しく理解しましょう~
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診療していると、
「上の血圧は正常と言われたのですが、下だけ高いんです」
という相談があります。
血圧には、
上の血圧=収縮期血圧
下の血圧=拡張期血圧
があります。
「下だけ高い」という状態にも意味があります。
心臓は収縮と拡張を繰り返しながら血液を全身へ送っています。
心臓が収縮して血液を送り出したときの血圧です。
心臓が拡張して次の血液を受け入れている時期の血圧です。
つまり、
なのです。
一般に、収縮期血圧は高血圧域ではないのに、拡張期血圧だけが高血圧域にある状態を、
(Isolated Diastolic Hypertension:IDH)
と呼びます。
ただし注意したいのが、
ことです。
米国のACC/AHA基準を使った研究と、日本や欧州の基準を使った研究では対象者が異なります。
そのため、海外の記事で「下が80を超えたら拡張期高血圧」と読んでも、その数字をそのまま日本の診断基準に当てはめてはいけません。
JSH2025では、高血圧の診断基準は従来どおり、
診察室血圧 140/90 mmHg以上
です。
したがって診察室で、
上は140未満
下は90以上
であれば、収縮期血圧は基準未満でも拡張期血圧によって高血圧に該当します。
「上が正常だから高血圧ではない」という判断はできません。

【図1:上の血圧・下の血圧とは?― 収縮期血圧と拡張期血圧の違い】
年齢によって高血圧の現れ方は変わります。
高齢になると大動脈などの太い血管が硬くなり、
上の血圧が上がりやすく、下の血圧はむしろ下がる
ことがあります。
これが高齢者に多い孤立性収縮期高血圧です。
一方、比較的若い世代では太い血管の硬化がまだそれほど進んでいない一方で、末梢の細い血管の抵抗が増えることで、拡張期血圧が高くなることがあります。
血圧は大まかに考えると、
心臓が送り出す血液量 × 血管の抵抗
によって決まります。
細い血管が収縮すると血液が流れにくくなり、血管抵抗が増加します。
その結果、
拡張期血圧が高くなる
ことがあります。
比較的若い人の拡張期高血圧で確認したいのが、
肥満
内臓脂肪
運動不足
糖代謝異常
などです。
肥満では、
交感神経の活性化
インスリン抵抗性
腎臓でのナトリウム貯留
RAASの活性化
睡眠時無呼吸
など複数の機序を通して血圧が上がりやすくなります。
塩分を多く摂取すると、体内のナトリウムと水分量が増え、血圧上昇につながります。
注意したいのは、
麺類の汁
味噌汁
漬物
加工肉
練り製品
惣菜
外食
調味料
などです。
「食卓で塩を振らない」だけで十分とは限りません。
飲酒量が多いと血圧上昇につながります。
また喫煙すると交感神経が刺激され、一時的に血圧や心拍数が上昇します。
さらに喫煙は血圧とは別に、動脈硬化や心血管疾患の重要な危険因子です。
したがって、
「下の血圧だけの問題」
として考えるのではなく、心血管リスク全体を見直す必要があります。
肥満があり、
いびき
無呼吸
日中の眠気
朝の頭痛
などがあれば、睡眠時無呼吸も考えます。
睡眠中の低酸素や覚醒反応によって交感神経が活性化し、血圧上昇に関与します。
ここは少し複雑です。
孤立性拡張期高血圧の心血管リスクについては、定義と年齢によって研究結果が異なります。
特にACC/AHAの比較的低い拡張期血圧基準で定義されたIDHでは、心血管イベントとの関連が弱い、あるいは明確でない研究もあります。
一方、より高い拡張期血圧を基準としたIDHでは、心血管リスク上昇との関連を示す研究があります。
したがって、
どの程度高いのか、年齢、家庭血圧、他の危険因子を含めて判断します。
若い人では、現在の10年間だけをみた絶対的な心血管リスクは高齢者より低いことがあります。
しかし、
30代・40代から血圧が高い状態が何十年も続く
という視点が重要です。
血圧による血管への負荷は長期間積み重なります。
「若いから大丈夫」ではなく、
診察室で一度、
125/92
だったからといって、すぐに「孤立性拡張期高血圧」と確定するわけではありません。
血圧は、
緊張
睡眠不足
運動
喫煙
カフェイン
寒さ
痛み
ストレス
などでも変動します。
繰り返し測定し、家庭血圧も確認します。
これまでのシリーズで説明したように、家庭血圧は高血圧診療で非常に重要です。
病院で下だけ高い場合でも、
家庭ではどうなのか
を確認します。
逆に病院では正常でも、家庭で拡張期血圧が高い場合には仮面高血圧の可能性があります。
基本は高血圧対策と同じです。
体重を適正化する
減塩する
定期的に運動する
飲酒を見直す
禁煙する
睡眠を整える
ことが重要です。
肥満・メタボがある場合には体重管理の効果も期待できます。
肥満・内臓脂肪型肥満を伴う場合、当院では糖質の摂りすぎを見直すことを積極的な選択肢の一つと考えています。
特に、
砂糖入り飲料
お菓子
パン・麺・ご飯の過剰摂取
などを見直し、適切な糖質制限によって体重や内臓脂肪が減れば、血圧改善につながる可能性があります。
ただし糖質制限をしているから、
塩分・脂質・総摂取エネルギーを無制限にしてよい
わけではありません。
生活習慣改善だけでよいのか、降圧薬が必要なのかは一律には決められません。
確認するのは、
血圧の程度
家庭血圧
年齢
糖尿病
CKD
脂質異常症
喫煙
心血管疾患の既往
臓器障害
などです。
つまり、
全体の心血管リスクを評価して治療方針を決めます。

【図2:下の血圧が高いときに確認したいこと― 肥満・塩分・飲酒・喫煙・睡眠・家庭血圧】
ここも重要です。
高血圧治療では血圧を下げることによって脳卒中や心血管疾患を予防します。
しかし、
という意味ではありません。
心臓を養う冠動脈への血流は、主に心臓が拡張している時期に流れます。
そのため拡張期血圧が非常に低い患者さん、とくに冠動脈疾患がある患者さんでは、
拡張期血圧が低すぎることと心血管イベントの増加が関連する
という観察研究があります。
これを血圧のJカーブ現象と呼びます。
ここは誤解されやすいところです。
観察研究で、
「拡張期血圧が低い人ほどイベントが多い」
という関連があっても、
「降圧治療によって下げたことが原因」
とは限りません。
動脈硬化が強い人では、
上が高く、下が低い
という状態になりやすく、それ自体が高リスクを示している可能性もあります。
したがってJカーブだけを理由に、必要な降圧治療を自己判断で弱めたり中止したりするのは適切ではありません。
JSH2025では高血圧患者の一般的な降圧目標として、
診察室血圧 130/80 mmHg未満
家庭血圧 125/75 mmHg未満
が示されています。
ただし、これは機械的に全員へ同じ治療を行うという意味ではありません。
高齢者
フレイル
起立性低血圧
冠動脈疾患
治療による症状
などを考慮し、忍容性をみながら個別に調整します。
患者さんは、
「上はいくつですか?」
と収縮期血圧に注目しがちです。
もちろん収縮期血圧は非常に重要です。
しかし、
特に比較的若い方で下の血圧が繰り返し高い場合には、家庭血圧を確認し、生活習慣や他の心血管リスクも一度評価することをおすすめします。
拡張期血圧だけが高い場合に、
「上が正常だから放置」
も、
「下が高いからすぐ薬」
も適切ではありません。
まず、
家庭血圧
体重・腹囲
塩分
飲酒
喫煙
運動
睡眠
血糖
脂質
腎機能
などを確認します。
若い患者さんほど、現在の数字だけではなくこれから何十年その血圧にさらされるかという視点も大切です。
「下の血圧」は拡張期血圧です。
上の血圧が高血圧域でなくても、下の血圧が高ければ高血圧に該当することがあります。
比較的若い人では、末梢血管抵抗の増加などを背景として孤立性拡張期高血圧がみられることがあります。
一方、その心血管リスクは定義や年齢によって研究結果が異なるため、
ことが重要です。
「上は正常なのに、下だけいつも高い」
という方は、そのままにせず家庭血圧を記録してみてください。
特に、
肥満・メタボ
糖尿病
脂質異常症
腎臓病
喫煙
睡眠時無呼吸
などがある場合には、血圧だけでなく心血管リスク全体を確認することが重要です。
まずは内科クリニックへご相談ください。必要に応じて専門医療機関へご紹介します。
血圧計を見るとき、
上の数字だけ見て終わっていませんか?
若い方で、
「上は正常なのに下だけ高い」
状態が繰り返される場合には、一度家庭血圧を記録してみましょう。
大切なのは一回の数字ではなく、普段の血圧がどのような状態なのかです。
「上が160なのに、下は70」。
なぜ年齢とともにこのような血圧になりやすいのでしょうか。
次回は、動脈硬化・大動脈の弾力性・脈圧との関係、収縮期高血圧が脳卒中・心不全などのリスクになる理由、そして高齢者ではどこまで血圧を下げるべきかを、JSH2025と最新エビデンスに沿って解説します。