第1713回:院長ブログ:上の血圧だけ高い「収縮期高血圧」とは?高齢者に多い理由 ~「上が160、下が70」になるのはなぜ?動脈硬化と脈圧から理解する高齢者の高血圧~
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高齢の患者さんでは、
「上の血圧だけ高い」
という状態をよく認めます。
たとえば、
160 / 70 mmHg
のような血圧です。
患者さんから、
「下は正常なのだから大丈夫ですよね?」
と聞かれることがあります。
しかし、
収縮期血圧だけが高血圧域で、拡張期血圧は高血圧域ではない状態を、
(Isolated Systolic Hypertension:ISH)
と呼びます。
日本の診察室血圧で考えると、典型的には
収縮期血圧 140 mmHg以上
拡張期血圧 90 mmHg未満
というパターンです。
中高年、とくに高齢者でよくみられる高血圧のタイプです。孤立性収縮期高血圧は高齢者に多く、治療によって心血管イベントを減らせることがRCT・メタ解析から示されています。
最大のポイントは、
です。
若い大動脈には弾力があります。
心臓から血液が勢いよく送り出されると、大動脈が一度ふくらみ、そのエネルギーを受け止めます。
そして心臓が拡張している間に、蓄えたエネルギーを使って血液を末梢へ送り続けます。
これを大動脈のWindkessel(ウインドケッセル)機能と呼びます。
イメージとしては、
若い血管=柔らかいゴムホース
です。
心臓が血液を送り出した瞬間に血管が広がるため、圧力の急上昇を吸収できます。
ところが年齢とともに、
弾性線維の変化
コラーゲン増加
石灰化
血管壁の構造変化
などが進むと、大動脈は硬くなります。
2025年の血管老化レビューでも、動脈硬化(arterial stiffness)はWindkessel機能の低下、脈圧増大、孤立性収縮期高血圧につながる重要な血管老化の特徴として整理されています。
大動脈が硬くなると、心臓が血液を送り出したときに十分に広がれません。
すると圧力を吸収できず、
さらに、末梢から戻ってくる反射波が早く心臓側へ戻ることも、収縮期血圧を押し上げる方向に働きます。
さらに高齢になると、大動脈が拡張期に血液を送り続ける能力も低下します。
その結果、
上の血圧は高い
下の血圧はそれほど高くない、あるいは低くなる
という状態が生まれます。
これが高齢者に多い孤立性収縮期高血圧の大きな仕組みです。

【図1:なぜ高齢者は「上の血圧だけ高くなる」?― 若い血管と硬くなった大動脈の違い】
ここで覚えておきたいのが、
です。
計算は簡単です。
脈圧=上の血圧-下の血圧
たとえば、
120-70=50 mmHg
に対して、
160-70=90 mmHg
となります。
後者では上と下の差が大きく開いています。
これを、
「脈圧が大きい」
「脈圧が広い」
と表現します。
高齢者では、広い脈圧は大動脈などの動脈硬化を反映する一つの手掛かりになります。
ただし、
「脈圧○mmHg以上なら動脈硬化」
と一つの数字だけで診断するものではありません。
血圧、年齢、心臓の状態などを含めて評価します。
高齢の収縮期高血圧患者では、脈圧が心不全や脳卒中リスクと関連した研究もあります。
「下が正常だから大丈夫」
ではありません。
高い収縮期血圧が長期間続けば、
脳
心臓
腎臓
大動脈
全身の血管
に負担がかかります。
孤立性収縮期高血圧は中高年・高齢者の心血管リスクと関連し、降圧治療によって予後を改善できることが示されています。
日本人の高血圧診療では、脳卒中予防は非常に重要です。
収縮期血圧が高い状態を放置すると、
脳梗塞
脳出血
などのリスクにつながります。
「年齢が高いから、このくらいの血圧は仕方がない」
と単純に考えるべきではありません。
高い血圧に対して心臓が長期間血液を送り続けると、左心室に負担がかかります。
その結果、
左室肥大
心筋の硬さ
拡張機能障害
などが進み、心不全の背景になることがあります。
高齢者に多い**HFpEF(左室駆出率の保たれた心不全)**を考えるうえでも、高血圧管理は重要です。
ここは現在の高血圧診療で非常に重要なところです。
以前は、
「高齢者は少しくらい血圧が高い方がよい」
という考え方が今より強くありました。
しかし、現在のエビデンスでは、
60~80歳の高血圧患者8,511人を対象としたSTEP試験では、収縮期血圧をより積極的に管理した群で、標準的に管理した群より主要心血管イベントが少なくなりました。原試験では主要アウトカムのハザード比は0.74でした。
さらに2025年に発表された6年間の延長追跡でも、早期から積極的な血圧管理を継続した群で心血管イベントが少なく、早く治療を開始することの長期的なメリットが示唆されています。
ここは慎重に考えます。
JSH2025では、高血圧患者の一般的な降圧目標として、
診察室血圧 130/80 mmHg未満
家庭血圧 125/75 mmHg未満
が示されています。
しかし、
特に、
フレイル
起立性低血圧
転倒リスク
認知機能低下
複数の病気
多剤服用
腎機能低下
などがある場合には、患者さんごとに治療を調整します。
STEP試験でも積極的治療群では心血管イベントが減少した一方、低血圧は増加しました。
したがって、
目標値だけを見るのではなく、安全にその血圧まで下げられるか
が重要です。
孤立性収縮期高血圧では、
上を下げたいけれど、もともと下が低い
という問題があります。
たとえば、
170 / 65 mmHg
の患者さんです。
降圧治療によって上を下げると、下もさらに低くなる場合があります。
心臓自身を養う冠動脈には、主として心臓が拡張している時期に血液が流れます。
そのため、特に冠動脈疾患がある患者さんで拡張期血圧が非常に低くなる場合には注意が必要です。
ただし、
という意味ではありません。
必要な降圧のメリットと低血圧によるリスクを個別に考えます。
高齢者では、
座っていると150
立つと急に血圧が低下する
ということがあります。
これが起立性低血圧です。
症状として、
ふらつき
立ちくらみ
転倒
失神
などがあれば特に注意します。
診察室で座位血圧だけを測って終わりではなく、必要に応じて立位血圧も確認します。

【図2:高齢者の収縮期高血圧で確認したいこと― 脈圧・動脈硬化・起立性低血圧・家庭血圧】
診察室だけでは、
白衣高血圧
仮面高血圧
早朝高血圧
を十分に把握できません。
高齢者でも家庭血圧を継続することは非常に重要です。
ただし、
低い数字が出るまで何度も測る
のではなく、決めた条件で継続して記録してください。
高齢者だから生活習慣改善に意味がないわけではありません。
特に、
塩分
体重
運動
飲酒
喫煙
睡眠
などを確認します。
ただし高齢者では、若い人と同じように単純に「痩せれば痩せるほどよい」とは考えません。
筋肉量や栄養状態、フレイルにも注意が必要です。
肥満や糖尿病、メタボを伴う場合には、当院では糖質の摂りすぎを見直すことを有力な選択肢の一つと考えています。
一方、高齢者では、
過度な食事制限 → 筋肉量低下 → サルコペニア・フレイル
につながらないよう注意が必要です。
したがって、
という視点が重要です。
十分なタンパク質や栄養状態、運動能力などを確認しながら行います。
孤立性収縮期高血圧だから特別な一種類の薬だけを使う、というわけではありません。
年齢、腎機能、心疾患、糖尿病、体液量、他の薬などを考慮して降圧薬を選択します。
過去の孤立性収縮期高血圧のRCTでは、サイアザイド系利尿薬や長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬などを中心とした治療で心血管イベント減少が示されてきました。
薬は自己判断で増減・中止しないでください。
高齢者の収縮期高血圧で避けたいのは、
「年だから上が高いのは当たり前」
と放置することです。
一方で、
数字だけを追いかけて過度に降圧する
ことにも注意が必要です。
当院では、
家庭血圧
脈圧
立位血圧
ふらつき
腎機能
心血管疾患
糖尿病
フレイル
服薬状況
などを総合的に評価して治療を考えます。
高齢者に多い、
「上が高い・下はそれほど高くない」
という血圧を孤立性収縮期高血圧と呼びます。
背景にある重要な要因が、
です。
血管のクッション機能が低下すると、
収縮期血圧が上昇
↓
脈圧が広がる
↓
脳・心臓・腎臓への負担が増える
という状態につながります。血管老化と動脈硬化は、孤立性収縮期高血圧や臓器障害に関係する重要な病態です。
高齢者でも適切な降圧治療による心血管イベント予防効果は示されています。
「上が160だけど、下は70だから大丈夫」
とは考えないでください。
一方で、
「130未満にしなければ」と自己判断で薬を増やすことも避けてください。
高齢者では、
ことが大切です。
まずは家庭血圧を記録し、内科クリニックへご相談ください。必要に応じて専門医療機関へご紹介します。
高齢になって、
「上は高くなったのに、下はむしろ低くなった」
という方では、単に「血圧が上がった」だけでなく、
にも注目してみてください。
脈圧の広がりは、血管の老化・硬さを考える一つの手掛かりになります。
ただし脈圧だけで動脈硬化を自己診断するのではなく、家庭血圧や他の心血管リスクと合わせて評価しましょう。
「血圧は130/70だから正常。でも上と下が60も違う」。
この差=脈圧にはどのような意味があるのでしょうか。
次回は、脈圧が広がる仕組み、大動脈の硬さとの関係、脈圧だけで動脈硬化を診断できるのか、そして心臓・脳・腎臓への影響まで、最新エビデンスに沿って詳しく解説します。