第1714回:院長ブログ:血圧の「上と下の差」が大きいのは危険?脈圧と動脈硬化の関係 ~血圧が130/70でも気にした方がいい?脈圧から考える血管の老化と心血管リスク~
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血圧を測ったとき、
「上の血圧はそれほど高くないのに、下との差が大きい」
と気になったことはありませんか?
あるいは、
「以前は上と下の差が40くらいだったのに、最近は60以上ある」
という方もいるかもしれません。
この上と下の血圧の差を、
といいます。
実はこの脈圧、血管の弾力性や心血管リスクを考えるうえで参考になる数字です。
特に高齢者では、脈圧が広くなることと血管の老化が関係している場合があります。
ただし、脈圧が広いからといって、必ず動脈硬化や心臓病があるわけではありません。
今回は脈圧の意味と、どのようなときに注意すべきかを解説します。
血圧には、
上の血圧=収縮期血圧
下の血圧=拡張期血圧
があります。
心臓が収縮して血液を送り出すときの圧力が「上」、心臓が拡張しているときの圧力が「下」です。
脈圧は、この2つの差によって求められます。
例えば、
120/80mmHg → 脈圧40mmHg
130/70mmHg → 脈圧60mmHg
160/70mmHg → 脈圧90mmHg
となります。
このように上と下の差が大きい状態を、一般に「脈圧が広い」と表現します。
重要なポイントは、
です。
若い人の大動脈には弾力があります。
心臓から血液が勢いよく送り出されると、大動脈は一度ふくらみ、その圧力を吸収します。
そして心臓が拡張している間に、血管が元に戻ろうとする力を利用して、血液を全身に送り続けます。
この仕組みをWindkessel(ウインドケッセル)機能といいます。
つまり、大動脈は血液の勢いを和らげるクッションのような役割をしているのです。
ところが年齢とともに、
弾性線維の変化
コラーゲンの増加
血管壁の石灰化
血管の構造変化
などが進み、大動脈は硬くなりやすくなります。
すると、心臓が血液を送り出したときに十分に広がることができません。
その結果、
一方、血管が拡張期に血圧を保つ働きも弱くなるため、下の血圧はそれほど上がらず、むしろ低下する場合があります。
こうして、
上の血圧は高くなる
下の血圧はそれほど高くならない
その結果、脈圧が広がる
という状態が生まれます。
血圧は、血液が流れることによって生じる圧力の波として、血管の中を伝わります。
この波の一部は、血管の分岐部などで反射して心臓側へ戻ってきます。
血管が硬くなると、この圧力の波が伝わる速度が速くなります。
その結果、反射波が収縮期に戻りやすくなり、上の血圧をさらに押し上げる方向に働くことがあります。
つまり、脈圧が広くなる背景には、血管の弾力性低下だけでなく、血圧の波の伝わり方の変化も関係しています。
【図1:脈圧とは?― 若い血管と硬くなった血管、上と下の血圧の差を比較】
脈圧が広いことは、動脈の硬さを反映する手掛かりの一つです。
しかし、注意したいことがあります。
一般に「動脈硬化」と呼ばれる変化には、大きく分けて、
血管の弾力性が低下して硬くなる変化
と、
血管の内側にプラークが形成される変化
があります。
両者は関連しますが、同じものではありません。
そのため、脈圧が広いからといって、冠動脈や頸動脈にプラークがあると診断できるわけではありません。
また、脈圧は心臓が送り出す血液量や心臓弁膜症などによっても変化します。
例えば、大動脈弁閉鎖不全症では脈圧が大きくなることがあります。
脈圧は血管の健康状態を考える参考指標ですが、脈圧だけで病気を診断するものではありません。
ここは誤解しやすいところです。
高齢の高血圧患者を対象とした研究や従来の海外ガイドラインでは、脈圧60mmHg程度以上が心血管リスクの評価に用いられることがあります。
しかし、
また、その数字を超えた瞬間に急に危険になるわけでもありません。
例えば、
130/70mmHg → 脈圧60mmHg
160/100mmHg → 脈圧60mmHg
この2つは脈圧が同じですが、血圧の状態は大きく異なります。
したがって、脈圧だけを取り出して危険かどうかを判断することは適切ではありません。
実際には、収縮期血圧、拡張期血圧、年齢、糖尿病、腎臓病などを含めて評価する必要があります。
脈圧が広いことは、特に中高年・高齢者において、心血管疾患のリスク上昇と関連することが報告されています。
代表的なものは、
脳卒中
冠動脈疾患
心不全
慢性腎臓病
などです。
脈圧が大きい状態は、心臓が血液を送り出すときの負担や、血管に加わる拍動性の負荷が大きいことを反映している場合があります。
ただし、ここで重要なのは、
脈圧が広いことと病気が関連すること
と、
脈圧が広いこと自体が病気の直接の原因であること
は同じではないという点です。
高血圧は、脳梗塞や脳出血の重要な危険因子です。
血管が硬くなり、上の血圧が高い状態が続くと、脳の血管にも負担がかかります。
特に高齢者では、脈圧の広がりが血管の老化や高い収縮期血圧を反映している場合があります。
ただし、脳卒中予防で最も重要なのは、脈圧だけではなく、収縮期・拡張期血圧を適切に管理することです。
大動脈が硬くなると、心臓は高い圧力に対して血液を送り出す必要があります。
その状態が長く続くと、
左室肥大
心筋の硬さ
拡張機能障害
などにつながる場合があります。
こうした変化は、高齢者に多い**HFpEF(左室駆出率の保たれた心不全)**とも関係します。
もちろん、脈圧が広いだけで心不全と診断することはできません。
息切れ、むくみ、運動時の息苦しさなどがある場合には、心臓の評価が必要です。
腎臓には多くの細い血管があります。
血圧の異常や動脈の硬さは、腎臓の血管にも影響する可能性があります。
日本の大規模な観察研究でも、脈圧と腎機能低下や慢性腎臓病の発症との関連が報告されています。
ただし、脈圧が広いこと自体が腎臓病の直接の原因と証明されたわけではありません。
高血圧がある方では、血圧管理に加えて、
血清クレアチニン・eGFR
尿蛋白・尿アルブミン
などを必要に応じて確認することが大切です。
高齢者では、
上が170、下が60
という血圧をみることがあります。
この場合、脈圧は110mmHgです。
上の血圧が高いことはもちろん問題ですが、下の血圧が低いことにも注意が必要な場合があります。
心臓自身に血液を送る冠動脈には、主として心臓が拡張している間に血液が流れます。
そのため、特に冠動脈疾患がある方では、拡張期血圧が極端に低い場合に心筋への血流が問題になることがあります。
ただし、
降圧によるメリットと、低血圧・ふらつき・転倒などのリスクを個別に評価することが重要です。
最初に行いたいのは、家庭血圧の記録です。
診察室の一回の測定だけでは、普段の血圧を十分に把握できません。
血圧は、
緊張
寒さ
睡眠不足
運動
飲酒
ストレス
などによって変動します。
上腕式血圧計を使い、朝と夜、できるだけ同じ条件で継続して測定しましょう。
その際には、脈圧だけを記録するのではなく、上と下の血圧を両方記録することが大切です。
また、以前と比べて脈圧が大きく変化した場合や、息切れ、胸痛、ふらつきなどがある場合には医療機関で相談してください。突然の強い胸痛や背部痛、意識障害、急な麻痺などがある場合は、救急要請が必要です。
必要に応じて、
血液検査
尿検査
心電図
心エコー
頸動脈エコー
などを検討します。
また、動脈の硬さを評価する検査として、脈波伝播速度(PWV)などがあります。
ただし、脈圧が広い方全員に、すべての検査が必要なわけではありません。
年齢や症状、心血管リスクを考慮して検査を選択します。
基本は、高血圧と心血管リスクを適切に管理することです。
特に大切なのは、
減塩
適正体重の維持
定期的な運動
節酒
禁煙
十分な睡眠
必要に応じた降圧治療
です。
肥満・メタボがある方では、体重や内臓脂肪の管理も重要です。
当院では、糖質の過剰摂取を見直すことを、肥満・メタボ改善の積極的な選択肢の一つと考えています。
糖質制限によって体重や内臓脂肪が減少すれば、血圧改善につながる可能性があります。
ただし、糖質制限そのものが必ず脈圧を小さくするという意味ではありません。
また、高齢者では過度な食事制限によって筋肉量が減少しないよう、栄養状態にも注意が必要です。
日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」では、血圧を適切に管理し、心血管疾患を予防することが重要とされています。
高血圧の診断基準は、
診察室血圧 140/90mmHg以上
家庭血圧 135/85mmHg以上
です。
一方、高血圧患者の一般的な降圧目標は、
診察室血圧 130/80mmHg未満
家庭血圧 125/75mmHg未満
です。
ただし、高齢者やフレイルのある方、起立性低血圧がある方などでは、患者さんの状態に応じた調整が必要です。
重要なのは、
ということです。
脈圧が広いからといって、自己判断で降圧薬を増やしたり変更したりしないでください。
【図2:脈圧が広いときに確認したいこと― 家庭血圧・動脈硬化・心臓と腎臓の健康】
当院では、脈圧を「血管の状態を考える一つの手掛かり」と捉えています。
特に高齢者で、上の血圧が高く、下の血圧が低い場合には、大動脈などの血管の弾力性低下が関係している可能性があります。
しかし、脈圧の数字だけで判断することはありません。
家庭血圧
年齢
糖尿病
脂質異常症
腎機能
心血管疾患の既往
生活習慣
降圧薬の副作用
などを総合的に確認します。
脈圧の数字を小さくすることだけを目的にするのではなく、脳・心臓・腎臓を守ることを目標に治療するという考え方です。
脈圧とは、上の血圧から下の血圧を引いた数字です。
高齢になると、大動脈などの血管が硬くなることで上の血圧が高くなり、下の血圧が相対的に低くなって、脈圧が広がりやすくなります。
脈圧の広がりは、心血管疾患のリスクと関連する場合があります。
しかし、
大切なのは、上と下の血圧、家庭血圧、年齢、糖尿病や腎臓病などを含めて総合的に評価することです。
「以前より上と下の血圧の差が大きくなった」
「上の血圧は高いのに、下は低い」
そんな変化があれば、一度、家庭血圧を記録してみてください。
血圧の変化には、加齢による血管の状態の変化が関係している場合があります。
脈圧が広いこと自体に必要以上に不安を感じる必要はありませんが、気になる状態が続く場合には、まずは内科クリニックへご相談ください。
必要に応じて専門医療機関へご紹介します。
血圧を測るとき、多くの方は「上の数字がいくつか」に注目します。
しかし、年齢を重ねた方では、
「上と下の差が以前より大きくなっていないか」
にも目を向けてみましょう。
脈圧の変化は、血管の状態を考える手掛かりになることがあります。
ただし、脈圧だけにこだわらず、普段の血圧や体調、心臓・腎臓の状態と合わせて考えることが大切です。
「普段は正常なのに、突然血圧が高くなる」
「寒い朝や仕事で緊張したときだけ、血圧が上がる」
血圧は一日の中で常に変化しています。しかし、変動が大きい場合には、注意が必要なこともあります。
次回は、血圧が急に上がる仕組み、ストレスや寒さ、睡眠、運動との関係、血圧変動と心血管リスクについて、最新のガイドラインとエビデンスを踏まえて解説します。
※本記事は日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」および脈圧・血管の硬さと心血管リスクに関する医学研究を踏まえ、患者さん向けに独自の文章・構成で作成しています。ガイドラインの文章・図表・フローチャートは転載していません。