第1704回:院長ブログ:肥満治療はどこまで進んだ?GLP-1・GIP/GLP-1など「肥満症治療薬」の現在 ~「痩せ薬」ではなく肥満症を治療する薬。適応・効果・副作用を正しく理解しましょう~
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肥満治療は大きく変わりつつあります。
これまでは、
「食べる量を減らして運動しましょう」
という生活習慣改善が治療の中心でした。
もちろん現在でも食事・運動療法は非常に重要です。
しかし近年は、食欲や満腹感などに関係する消化管ホルモンを利用した薬によって、肥満症そのものを医学的に治療する選択肢が広がっています。
代表的なのが、
GLP-1受容体作動薬
そして、
GIP/GLP-1受容体作動薬
です。
ここは非常に重要です。
医学的には、BMIが高いというだけの肥満と、治療すべき疾患としての肥満症は同じ意味ではありません。
肥満に関連して、
糖尿病
高血圧
脂質異常症
脂肪肝
睡眠時無呼吸
関節への負担
などの健康障害がある、あるいは一定の条件で内臓脂肪蓄積が認められる場合などに、医学的な評価を行ったうえで「肥満症」と診断されます。
つまり肥満症治療の目的は、単に
「見た目を細くする」
ことではありません。
これまでシリーズで見てきたように、肥満は、
糖尿病
高血圧
脂質異常症
脂肪肝
睡眠時無呼吸
心血管疾患
腎臓病
などと関係します。
したがって肥満症治療の目的は、
体重を減らすことを通して、肥満に伴う健康障害を改善し、将来の病気のリスクを減らすこと
です。
体重計の数字だけがゴールではありません。
GLP-1は、食事をしたときなどに腸管から分泌されるホルモンの一つです。
主に、
血糖値に応じたインスリン分泌を促す
グルカゴン分泌を調節する
胃内容排出に影響する
食欲・満腹感に作用する
などの働きがあります。
このGLP-1の作用を利用した薬がGLP-1受容体作動薬です。
GLP-1受容体作動薬では、中枢神経などに作用して、
食欲が低下する
満腹感が得られやすくなる
食事量が減る
ことなどによって体重減少につながります。
単純に、
「脂肪を直接溶かして排出する薬」
ではありません。
さらに新しい仕組みとして注目されているのが、GIP/GLP-1受容体作動薬です。
GIPとGLP-1という二つのインクレチン関連経路に作用します。
この代表がチルゼパチドです。
糖尿病治療では「マンジャロ」、肥満症治療では「ゼップバウンド」というように、同じ有効成分でも承認された疾患や製品が異なります。
ここは非常に重要なポイントです。
同じではありません。
マンジャロは日本では2型糖尿病治療薬として承認されています。
一方、肥満症に対しては、肥満症として承認された薬剤を、その適応・使用条件に沿って使用することが基本です。
糖尿病ではない人に、
「痩せたいから糖尿病薬を使う」
という考え方と、医学的に診断された肥満症を治療することは区別して考える必要があります。
現在、日本では肥満症に対して複数の薬物治療の選択肢があります。
その中で近年特に注目されているのが、
セマグルチド
チルゼパチド
などのインクレチン関連薬です。
ただし、薬が存在するからといって、
「太っていれば誰でも保険で使える」
わけではありません。
肥満症治療薬の保険適用では、
肥満症の診断
BMI
肥満に関連する健康障害
これまでの生活習慣改善
処方できる医療機関や医師の要件
など、薬剤ごとに定められた条件があります。
したがって、
「BMIが少し高いからGLP-1を保険で処方してほしい」
というだけでは、保険診療の対象にならない場合があります。
適応や施設要件は変更される可能性もあるため、実際の治療では最新の添付文書・保険要件を確認します。
臨床試験では、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬によって、生活習慣介入のみの場合より大きな体重減少が得られることが示されています。
ただし効果には個人差があります。
薬の種類
投与量
治療期間
もとの体重
食事
運動
副作用による継続性
などによって結果は異なります。
したがって、
「この薬なら必ず○kg痩せる」
とは言えません。
これも重要です。
体重が大きく減少するときには、脂肪だけでなく除脂肪量も減少する可能性があります。
特に、
蛋白質不足
運動不足
高齢者
急激な減量
などでは筋肉量低下に注意が必要です。
肥満症治療では、
「何kg減ったか」だけでなく、「何を減らして何を守るか」
が重要です。
GLP-1系の薬で食欲が低下すると、食事量そのものがかなり少なくなる人もいます。
そこで、
十分な蛋白質
適切な栄養
有酸素運動
筋力トレーニング
を組み合わせ、できるだけ筋肉を維持することが大切です。
特に中高年では重要なポイントです。
GLP-1系・GIP/GLP-1系の薬では、消化器症状が比較的よくみられます。
たとえば、
吐き気
嘔吐
下痢
便秘
腹部不快感
食欲低下
などです。
そのため通常は、少量から開始して段階的に調整します。
治療の目的は、
食べられなくすること
ではありません。
極端に食事量が減れば、
脱水
栄養不足
筋肉量低下
などにつながる可能性があります。
「ほとんど食べられない」「嘔吐が続く」といった場合には、無理に継続せず医師へ相談する必要があります。
大きな体重減少そのものや薬剤の影響などにより、胆石・胆のう関連の問題が起こることがあります。
強い右上腹部痛
発熱
黄疸
などがある場合には、速やかに医療機関へ相談してください。
まれですが、急性膵炎など重大な病態も考える必要があります。
強い持続性の腹痛、特に背中に響くような痛みや嘔吐などがある場合には、自己判断で様子を見ず医療機関を受診してください。
GLP-1関連薬単独では、一般に重い低血糖を起こしにくい特徴があります。
しかし、
インスリン
SU薬など
と併用している場合には低血糖リスクが高まることがあります。
糖尿病治療中の方は、自己判断で薬を追加・中止・減量してはいけません。
糖尿病患者さんで血糖が急速に改善した場合、網膜症の経過に注意が必要になることがあります。
糖尿病網膜症がある方では、眼科との連携も重要です。
近年、オンライン診療などで、
「GLP-1ダイエット」
「医療ダイエット」
という言葉をよく見かけます。
しかし医薬品には、
適応
禁忌・慎重投与
副作用
薬物相互作用
治療中のモニタリング
があります。
単に体重を落とす目的だけで、医学的評価を十分にせず使用することには注意が必要です。
医薬品を個人輸入したり、正規の医療ルートではない製品を使用したりすることはおすすめできません。
品質
保管状態
成分
偽造品
などの問題があり得ます。
肥満症治療薬は、医療機関で適切な診断と管理のもと使用する薬です。
いいえ。
薬によって食欲が低下しても、
何を食べるか
は重要です。
肥満・糖尿病・高中性脂肪・脂肪肝などがある方では、糖質の摂りすぎを見直すことは重要です。
当院では、肥満・メタボの方に糖質制限を有力な食事療法の一つとして取り入れています。
GLP-1系の薬を使いながら、
甘い飲み物
お菓子
菓子パン
過剰な主食
夜食
を続けるのでは、生活習慣そのものは改善していません。
薬は生活習慣改善の代わりではなく、生活習慣改善を支える治療手段の一つです。
「健康食品だから無制限に食べてよい」という食品はありません。
果物には果糖などの糖質が含まれるため、肥満・糖尿病・高中性脂肪・脂肪肝がある方では量を考えます。
特に、
ジュース
スムージー
ドライフルーツ
は糖質を摂取しやすいため注意します。
ナッツも種類によって糖質量が異なり、カシューナッツは比較的糖質が多めです。
またナッツは脂質が多くエネルギー密度も高いため、食べ放題にはしません。
非常に重要な問題です。
GLP-1系・GIP/GLP-1系薬によって体重が減少しても、治療を中止すると食欲や体重が再び増加することがあります。
これは、
「本人の意志が弱くなった」
という話ではありません。
肥満には食欲調節、代謝、遺伝、環境など複数の生物学的要因が関係します。
高血圧の薬を飲んで血圧が正常になったからといって、
「治ったから今日から全部中止」
とはしません。
肥満症についても、短期間だけ薬を使って体重を落とし終了するという考え方だけではなく、長期的な体重・健康管理をどう行うかという視点が重要になっています。
ただし治療継続期間は、薬剤・適応・効果・副作用などを考慮して個別に判断します。
肥満・内臓脂肪
↓
食事・運動・睡眠などを評価
↓
肥満症として治療が必要か判断
↓
生活習慣療法
+
必要に応じて薬物療法
↓
体重だけでなく健康障害を改善
↓
長期的な再増加を予防
という流れが基本です。

【図1:肥満症治療薬はどう効く?― GLP-1・GIP/GLP-1と食欲・満腹感・体重減少の仕組み】
肥満症治療薬を検討する場合には、
BMI・腹囲
血圧
血糖・HbA1c
脂質
肝機能
腎機能
既往歴
現在の薬
食生活
運動
睡眠時無呼吸
などを確認します。
薬だけを見るのではなく、その人の肥満全体を診ることが大切です。
「痩せたい」だけで薬を決めません。
糖尿病治療と肥満症治療を混同しません。
自己判断で増量しません。
吐き気・嘔吐・便秘・腹痛などを確認します。
薬を使っても糖質や総摂取量を見直します。
有酸素運動+筋力トレーニングを組み合わせます。
体重再増加を防ぐ長期的な治療計画を立てます。

【図2:肥満症治療薬を安全に使う7つのポイント― 適応・副作用・食事・運動・筋肉・長期管理】
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の登場によって、肥満症治療は大きく進歩しました。
一方で、
「注射すれば簡単に痩せる」
という捉え方は適切ではありません。
肥満症は、
食欲調節
内臓脂肪
インスリン抵抗性
生活環境
遺伝
睡眠
運動
などが複雑に関係する慢性疾患です。
薬物療法は非常に有力な選択肢ですが、食事・運動・睡眠を含めた総合的な治療の一部として使うことが重要です。
肥満治療は、
「本人の努力だけで痩せる」
という時代から大きく変化しています。
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬などによって、医学的に肥満症を治療できる選択肢が広がっています。
しかし、
誰でも使えるわけではない
美容目的と肥満症治療は同じではない
副作用がある
筋肉量にも注意が必要
食事・運動は必要
中止後の体重再増加も考える
という点が重要です。
肥満症治療薬は**「楽をして痩せる薬」ではなく、適切な患者さんに医学的管理のもとで使用する治療薬**です。
肥満は、
「自己管理ができないから起こる」
と単純に片づけられるものではありません。
食欲や体重には、ホルモン・神経・代謝・遺伝・環境など多くの要因が関係しています。
だからこそ、肥満症を医学的な病気として評価し、
食事
運動
睡眠
薬物療法
を必要に応じて組み合わせることが重要です。
まずは内科クリニックへご相談ください。
治療適応を評価し、必要に応じて専門医療機関へご紹介します。
肥満症治療薬について最も大切なのは、
「どの薬が一番痩せるか」から考え始めないこと
です。
先に考えるべきなのは、
なぜ太ったのか
どんな健康障害があるのか
何を改善する必要があるのか
筋肉をどう守るのか
治療後の体重をどう維持するのか
です。
薬は強力な道具になりました。
だからこそ、正しく使うことがこれまで以上に重要です。
「結局、何から始めればいい?」
「体重・腹囲・血圧・血糖・脂質のどこを見る?」
「糖質制限・運動・睡眠をどう組み合わせる?」
最終回は、これまで39回で解説してきた内容を整理し、内臓脂肪を減らし、筋肉を守り、糖尿病・高血圧・脂質異常症・脂肪肝・心血管疾患などを予防するための実践的な生活改善法を一つにまとめます。